機動戦士ガンダムNT 感想
公開日の翌々日に1回目を観たものの、親戚の不幸など様々なごたごたがあってかなり遅れて時期を逃してしまいましたが、先日2回目(ちゃっかり舞台挨拶でした)を観て(1回目の時に売り切れだった)パンフレットも入手してきたので、本日はガンダムNTの感想です。
※ 本記事は、ガンダムNTのネタバレを含みます。まだ観ていない方はぜひ劇場へ!
(パンフレット。ガンプラ好きなので資料欲しさに限定版を購入。)
機動戦士ガンダムNTは、ガンダムUCの福井晴敏先生の描く宇宙世紀サーガであり、久しぶりの完全新作劇場用ガンダム作品です。
私は、正直公開前は非常に不安でした。なぜなら、福井晴敏先生による大胆な”ニュータイプ”神話の語りなおし*1があると触れこまれていたからです。
ニュータイプは、宇宙世紀のいわば根幹概念なので、後付けでいじってほしくないなぁと感じていました。
それを踏まえた、今作で少し気になった点は以下の通りです。
- コロニー落としを救った奇蹟の子供たち
本作のキーパーソン、リタ・ベルナル。本作では彼女がニュータイプとして覚醒している描写がいくつも登場します(ヨナとミシェルへの能力の感応現象、コロニー落とし、ネオジオングの暴走などの未来予知、既に死亡しているにもかかわらず例のSE*2でヨナとミシェルに語り掛けるなど)。
その能力は、ララァ・スンをさらに強化しているかのような、ニュータイプというより超能力者やエスパーというべき次元に到達しているのでは?と少し思ってしまいました。
もっとも、ニュータイプの超常空間における他者理解が可能なほどのサイ・コミュニケーション能力や、ララァの「刻が見える」という発言を、最大限拡大解釈すればこのような解釈も可能だとは思います。 - 一部キャラクターがメアリー・スー的に少し感じた
上記のニュータイプの解釈にも少し関連しますが、一部キャラクターが少々メアリー・スー*3的に感じました。
リタは、作中死亡しながらも作中事件のすべてを握っており、神のようになっていますし、フェネクスももはやチート機体になっています。ここは、宇宙世紀という世界観で俺ツエーをしてしまっているのでは、と多少思いました。
ただ、フェネクスもリタも作中最後にはどこかへ飛び去ってしまうので、今後の宇宙世紀的にはシンギュラリティ問題*4は発生しないので、まぁここはスルーしてもよいかな、と思います。 - ジオン共和国の軍事力?
本作では、ラスボスとしてⅡ(セカンド)ネオ・ジオングが登場します。その出自はUCの時に製造されていた予備パーツをジオン共和国がルオ商会を経由して横流しで抑えたとのことですが、ジオンのタフさに少々疑問が残ります。
そもそも、今回のぞるたん、ゾルタンの部隊の帰属はどこでしょう。劇中では、「ジオン共和国がネオジオン(袖付き)残党として偽装して不死鳥狩りに送り込んだ部隊」という感じでした。すなわち、ジオン共和国軍ということになります。ゾルタンの出自から、袖付きも実質ジオン共和国軍(表向きはネオジオン(シャア)の残党)という形)であると思われます。となると、おそらくジオン共和国はジオン残党軍に対して度々支援などで一枚噛んでいたのでしょう。
そうなると、ジオン共和国のタフさがすごいことに……。連邦と停戦協定を結んだ頃はおそらく軍の解体があったはずなので、グリプス戦役~第二次グリプス戦役時代のどこかで、コロニー私設軍としてのジオン軍が再建されていることになります。連邦からの圧力は想像に難くないので、ジオン共和国には相当腕利きの政治家がいるのだろうなぁ、と想像しながらこの問題からは目を背けることとします。
ここまで、少し疑問に感じた点を書きました。結構細かい点に目を向けてグチグチ書きましたが、私はガンダムNTが嫌いなわけではありません。むしろ近年のガンダム作品の中ではかなり好きな部類です。楽しめた部分、素晴らしいな、と思う部分について以下に書きたいと思います。
- MS戦の迫力!
本作の作画も見ごたえ抜群です。ディジェがアンクシャやグスタフカールに対して無双するシーンは、「ディジェってやっぱ強いんだなぁ」と思いましたし、名のナラティブガンダムの高速度戦闘、フェネクスの神々しさMAXな戦闘などはド派手で大変満足しました。
正直、ナラティブガンダムのデザインは観る前までは好きではなかったのですが、観てからは掌ドリルの勢いで掌返しをしてます。*5 - キャラクター立ちの良さ
多少、グチグチとキャラクターについて言いましたが、本作のキャラクターはキャラ立ちがしっかりとしているので大好きです。
ヨナ、ミシェル、リタの奇蹟トリオは悲惨な経験をしたもののその受け止め方が三者三様でそれぞれ良い性格してます。
連邦軍人たちも、珍しく良い人ぞろいで、戦場に出る男の達観を見せつけるイアゴ隊長は人気が出そう。
ジオンサイドも、シャアの器のなりそこないでおもしろ強化人間かわいそうな強化人間のぞるたんゾルタンのそりゃもっともな怒りから生み出される、そりゃないだろっていうレベルの虐殺行為とか、エリク中尉の生真面目で能力もあって才色兼備なのに場に流されやすいところがあって、うまく利用されて最悪のタイミングでポイされるところが最高にポンコツ臭くて素晴らしいだとか、その太もものラインは確実に作画スタッフにフェチがいるだろとか、専用機のギラズールのプラモ化はまだかとか……。*6とにかく、キャラクターは今回も外れ無しかな(ゾルタンは合わないとちょっとキツイかも……)。 - ニュータイプ研究所の悪行
あと、個人的に良いね、と思ったのはティターンズニュータイプ研究所の悪行がリアルに描写されたことですかね。
強化人間=不安定というのはフォウをはじめとして度々見受けらえてきたけれどティターンズの強化人間の作り方がかなり非人道的、というのは結構マンガなどで登場してきた設定でした。*7映像化=史実ととらえられる慣習上、ニタ研が出てきてくれたのはうれしかったです。 - 不幸な失敗作たちの物語
本作は、人工ニュータイプの失敗作*8と、赤い彗星の器の失敗作*9が、人生に絶望しながらどういう行動をとるか、という点が対比されています。
ヨナとしても人生に希望が見いだせないというか、「希望を見出したいが、それ以上に過酷な現実がそうさせてくれない」という、ガンダム主人公の中ではかなり可哀そうなスタートラインにいます。劇中でナラティブガンダムがⅡネオジオングを乗っ取って暴れそうになったシーンは、ヨナは下手をするとゾルタンと同じなのだという何よりの証明でしょう。
本作は、社会に絶望した(虐げられた)者(ゾルタン)が起こそうとした逆襲を、ニュータイプ(リタ)が導き、主人公(ヨナ)が様々な周りの力を借りて(シェザール隊、ブリック、ミネバ、バナージの力を借りて)鎮圧する物語だといえますが、これは、逆襲のシャアとも類似しているな、と感じます。*10
それは、UC0090年代の雰囲気であり、これからこの先に物語が進むのだという転換期のかおりの表現としてなかなかうまいな、と思います。 - バナージの登場
人生に絶望したヨナに対して、やさしく先輩面していったバナージ君最高でした。あと、パンフにも黒いシルヴァバレトの詳細が乗ってないのは今後なんか動きがあるからなんですかね……?
総評
私がガンダムNTを観た感想は以上のようなところです。一言でまとめるのならば、「細かいところで疑問はあるものの、観て損はない。UC NexT 0100projectの起点」というところですかね。エンターテインメント作品としても中々よくまとまっていますし、単純にガンダムがカッコいい!というので観に行っても満足できる仕上がりだと思います。満足度を5点満点で表すのならば5点満点中4.5点くらいだと思える映画でした!
舞台挨拶で、成績如何では爆音上映やさらなるステップを考えているとサンライズのPが仰っていたので、これからも気にかけたい作品です。
それから、劇場放映後に入った閃光のハサウェイの予告といい、宇宙世紀が盛り上がってくれることはとてもうれしいです。宇宙世紀はどこまで行くんでしょうかねぇ。とりあえず、今は動くΞやペーネロペーが楽しみです。
この盛り上がりを機に、どうかOrigin一年戦争編と、ジョニーの帰還が映像化されますようにと妄想している、さいえんすふぃくしょん。でした。
*1:舞台挨拶によると、ナラティブという言葉は福井氏の奥さんが医療現場で使われるナラティブ(叙述であるが、自発的に語るというニュアンスが強い)を参考に決めたとのこと。
*2:キュピーンとともに稲妻が額に走るアレ。
*3:理想化されたオリジナルキャラクター。作者が自分を投影したキャラを作り出したりするときにも用いられますが、ここではあくまで万能すぎなキャラクター的なニュアンスです。
*4:作中でユニコーンガンダムはシンギュラリティ1と呼称されるようになったとのセリフがありました。技術的特異点の登場による技術の飛躍的な発展が起きると、F91以降につながらなくなってしまうのでここはそうしておくのが無難だと思います。
*5:そしてしっかりとガンプラを買うという。C装備待ち遠しいっす。
*6:筆者はエリク中尉押しであります。少佐はゲルググでマスドライバー防衛してどうぞ
*7:ジョニーライデンの帰還などにジオン式と比べてティターンズ式は苛烈である的な言及があった。外伝キャラのゼロ・ムラサメなどティターンズ産強化人間の悲哀はすさまじいものがある。もっとも、ジオン式もプルシリーズは悲惨な末路だし、今回のゾルタンみたいに頭のネジがぶっ飛んでるキャラもいるのでジオン式がサイコーというわけでもない。
*8:作中でヨナはパイロットとして中の上認定を受けたが、強化人間は本来MS戦のプロフェッショナルという点でヨナは失敗作といえなくもない。
*9:赤い彗星の再来の再来というのが少し話題になったが、炎上商法的なもので、実際はフルフロンタル”赤い彗星の再来”の失敗作
*10:社会に絶望したシャアが起こした逆襲を、アムロというニュータイプが導き、様々な者(ジェガンやギラドーガのパイロット)の力を借りて、軌跡を伴い逆襲を鎮圧する物語ととらえると、類似性が見えてきます。